アバターの規約に思うこと

先日、アバターの規約に関して、Twitterが少しにぎわいましたので、こちらに関して考えてみたいと思います。

事の発端はあるアバターを販売する作者が、その購入者による自分が想定しなかった使い方に関して苦言を出したことに発します。

尚、この記事においてはアバターの販売者の多くが日本在住であることを鑑みて、日本での事情で考えたいと思います。

問題の背景

VR向けのアバターというのは少し特殊な事実があるため、まずは詳細に詳しくない方向けに事情を解説したいと思います。VRのアバターというのはVR空間内で自分の化身として使う3Dモデルのことです。

VRの中で自分を示すものとして、使うものであり、これはいくつかの方法で用意することができます。大まかには以下のようなケースがあります。

  1. 無料で公開されているアバターを使用する。
  2. 購入したアバターを使う。
  3. 購入したアバターを改変して使う。
  4. 自作もしくは、作成を依頼する。

VRでは現在、改変文化が存在しており、購入したアバターを自分で好みに改変することによりオリジナリティを出すことができ、これは現在VRを象徴する一つの大きな要素で、同じアバターを基とするものにおいても、大きく異なった容姿の人とVRで会うことができるようになっています。

そのため、アバターに関しては販売されているものを含め、改変を許容する規約が設定されていることが通例となっており、多くの作者が非常に緩い制限を課しているというのが現状となります。

そして、あるアバターの作者が想定していなかった使い方(パーツとして一部を他のアバターと組み合わせて使う)ということに関して苦言がツイートされ、それをもとに議論が発生しました。

議論としては「規約」に加え作者の心情、つまり「お気持ち」が重視されるか、という点が論点となっているかと思われます。

今回はこの話に関して、まとめて、考えていきたいと思います。

規約に未表記に関する点の扱い

規約に未表記の場合、どのような扱いになるのでしょうか。規約に未表記になる場合においては、なんでも自由にできるわけではない(つまり、アバターとしての商品価値を著しく毀損するようなものは許容されないと考えられます)ものの、その未定義の部分においては大筋で「改変可能」であるとされている分、大きくは改変者の裁量によるものとなるかと思います。

購入者はその規約により購入を判断する材料にし、例えばアバターが改変可能か、またはその内容が購入者の使用ケースに合致するか、ということを確認する形になります。

つまり、作者が譲れない部分があるのであれば、それは規約にきちんと表記しておく必要があります。作者の心情は他人により差し図れるものではないからです。使用者の考え方やはたまた文化背景なども相違がある場合において、作者に忖度してほしい、と期待するのは非常に難しいのが現状です。(だから「契約」という概念が存在するわけですが。)

市場競争性とコントロールは相反する

そもそも、市場競争性と作者が持つことのできるコントロールというのは相反する性質があります。

以下の図をご覧ください。(ここでの市場競争性というのは作品の普及や使用者の数など、一般的に「商品」として流通する魅力性のことを指します。)

もっとも作者がコントロール可能な状態であるのはそもそも公開、販売をしないことです。この場合、作者以外使用せず、また他者に使用することを許諾していないので、完全なコントロール下にあると言えます。その代償として、販売、配布を行っていないので、市場競争性は0です。

その反対側に位置するのは低い制限(または全く制限をしない)場合です。この場合、使用者は自由度の高い改変をすることができるため、市場競争性は必然的に上昇します。その代わり使用者が行う改変の許容が高くなりますので、作者によるコントロールは低くなります。

そして、制限が高くなるほど、改変という点において作品の魅力が下がり、市場競争性が低くなっていきます。その代わり、作者によるコントロールを強く持つことができるわけです。

ですので、この度合いを考え、「比較的自由に使ってもらってコントロールできる部分を低くする」ようにするのか「比較的制限を高めて、高いコントロール下におく」のかを選択する必要があります。

規約は熟考すること

そして、もう一つ大きな点としては規約は販売開始までに熟考することです。譲れない部分があるのであれば、規約にそれを含めておくべきです。先ほど述べたように、規約は購入者の購入の判断材料となります。ですので、一度購入されてしまった以上、新たな制限を追加するなど、使用者にとって不利益になる方向に変更するのは非常に困難になります。(途中で変更を行った場合においてその有効性に関しては恐らく大きな疑問が生じる可能性が出てきます。)

つまり、最初に定めた規約の上に後出しという形で追加の条項を加えてもそれを行使をすることが難しくなる、ということです。変更内容によっては返金を求められてもおかしくない状態となりえる、ということです。(つまり、ある改変が可能であることを期待して購入した場合にそれが購入後に禁止となった場合、優良誤認である、と言われかねない、ということです。)有効に行使できるとすれば、改定以後に購入を行った使用者に対してのみになるかと思われます。

尚、将来的な変更を許諾させる、変更条項の定めに関しては不当となる可能性もあるようです。

物を売る道義と責任

物を販売する、という行為は大きな道義と責任が求められます。それは売買契約を結び、物品を販売する、という契約行為です。ですので、販売者は自分の心情を抑え、一貫性のある規約に基づいて粛々と対応することが求められます。例え納得がいかない部分があったとしてもそれを受け入れる覚悟が求められ、それが受け入れられないのであればそもそも販売をするべきではありません。

作成者: Hideki Saito

ゲーム業界に15年ほど携わり、現在は米国任天堂においてローカライゼーションエンジニアと翻訳技術の開発・保守などに携わる。