二日ちょっとで17本の作品を作った自分がAniCast Makerを語ってみる

AniCast Makerとは

AniCast Makerはキャラクターアニメーションを簡単に作ることのできるアプリケーションで、Oculus Quest向けに販売されています。VR空間の中でキャラクターを演じることにより、アニメーションを制作することができるようになっています。

最大15秒の動画が撮影できるようになっています。

制作の流れ

AniCast Makerではいくつかのモードが用意されており、メインモードでキャラクターや、ライト、その他オブジェクトの配置などの設定を行ない、アクターステージで演技を収録し、カメラモードでカメラの位置を調整したり、また、カメラ自体に動きをつけたりすることができます。BGMもいくつか用意されており、この設定もここで行います。

その他、扇風機を設置し、有効にすると風を吹かせることができます。

また、エディットモードを使用して、キャラクターの動き、例えば指や表情などを事後調整することができます。(これは、演技中に表情を同時に操作する余裕がない場合なんかに便利です。)

その後、レンダリングを行うと、Questのメディアとして、動画が作成されますので、これをSNSなどで共有する、といった流れになります。

良い点

AniCast Makerの良い点は、アイデアから映像化できる時間がとにかく短い点です。作品のアイデアを、それこそ5分もあれば映像化できる点は非常にすごいです。

この記事を書くにあたり、以下の作品を制作してみました。

そして、こちらがその制作風景です。

操作をしながらアイデアを考えていたにも関わらず、7分程度で動画が作れてしまった、ということになります。制作前にアイデアがすでにあれば5分もかからないかもしれません。

AniCast Makerのすごさはとにかく、直感的な操作でアニメーションが作れてしまうところです。

実際にリリースから数日で、それなりの数の作品を作れました。

このようにキャラクターアニメーションが作れるアプリケーションというのは過去にもいろいろとありましたが、このようにキャラクターになりきることで制作できる、という簡単さは、あたかもスケッチブックに絵を描いていくような自由さを感じさせ、これまでにない、革新的なものであるともいえます。

複数人のキャラクター(仕様上の制限は最大二人ですが)の掛け合いに関しても順番に録画していくことにより、一人で行うこともでき、制作の最初から最後まで、全部一人ですることができます。

これが、例えば従来のアニメーション制作環境であれば、キャラクターに動きをつけ、キーフレームを設定していくなどのかなり緻密な作業が必要となり、AniCast Makerほど簡単に作ることはできないので、これは大きな特長となります。

悪い点

手軽にアニメーションを作ることができる、という点はいいのですが、やはり、物足りない部分が散見されてしまいます。以下、いくつか考えていきたいと思います。

二次創作の壁を越えられない

製品コンセプト的にAniCast Makerは、既存の作品をもとにしたキャラクターや素材パッケージを販売する、というビジネスモデルを採用しているため、例えば現状、VRMファイルGLBファイルなどを取り込んで制作する、というような使い方は想定されておらず、せいぜい画像ファイルを取り込めるぐらいです。自分のキャラクターを取り込んでアニメーションを作るという使い方ができないので、このアプリケーションを使用して制作できるのは二次創作物に限られてしまう、ということになってしまいます。

また、販売される素材によっては組み合わせできないものもある、ということが示唆されており、表現の幅に関してはかなり制約が強い部類のものになってしまうのではないかと考えてしまいます。

制作面での制約

現状の15秒の制約というのは、短くはあるのですが、短尺アニメを作る、というコンセプト的には興味深い長さではあります。されども、より長いアニメーションを作りたい、という欲求はやはりでてくるので、今後はこれが段階的にでも改善されていけば、というような思いはあります。

複数のカメラが使えるなど、機能として面白いものはあるのですが、現行の15秒の尺でそれが効果的に生かせる場面が少なく、機能的に不完全燃焼な部分に思えます。10個のカメラが設置できたとして、15秒の尺だと有用性は限られてしまいますので……。

また、アプリケーション内でカメラの切り替えを録画することができず、レンダリング時に各カメラからの映像が出力される程度に留まっています。要は後でPCなどで編集して、ということだと思うのですが、やはり、これはアプリケーション内でできていて欲しかった部分ですね。これはTwitterでも知ってたら買わなかった、という意見もあるので、公式映像として、カメラの切り替えを使用した作例が示されているのは(コンプライアンス的な見地からも)是正されるべき問題であるかと思います。

口パクはできるものの、音声を吹き込むことができないなどの、制約もあり、全体的に創作範囲の制約は強く感じてしまいます。

既存の素材数

AniCast Makerには二人のキャラクターとアイテム、背景画像、BGMが付属しているのですが、このうち、アイテムとBGMに関しては、バリエーションが少なく、十分であるとは言えません。これは素材を販売する、というモデルの関係もあるとは思いますが、現状使用できるアイテム数がかなり限られているため、表現の可能性が非常に限られてしまっている、というのが印象です。また、アイテム的にも、ボールペンがあるのに、それを書くような仕草ができるメモ帳などがないなど、バランスの悪さも目立ってしまっています。

前述した、アイテムを取り込めないという制約も合わせ、こちらは大きく制作可能性を妨げてしまっている形となってしまっています。

まとめ

AniCast Makerは、キャラクターとして演技することで、簡単手軽に映像制作ができてしまう、という高い可能性をもったアプリケーションです。内蔵されているキャラクターのモデル品質も高く、かわいいものとなっています。

残念に思えるのは、現状、コンセプト的に既存の作品をもとにした二次創作ツールとしてしか使えないという仕様になっているため、創作者がツールとともに成長していけるような使用シナリオになっていない点だと思います。

また、二次創作をテーマにしたツールであることもあり、前述したように、素材によっては組み合わせられない、というような作品の権利者による制限がかかってしまうような問題、悪い言い方をすれば忖度が入った仕様、があるのが歯痒いところです。 製品のアイデアや作りとしては非常に新規的ではあるのですが、残念ながら、コンセプトとして設けられている壁によって、その可能性が非常に制限されてしまっており、「おもちゃ」としては面白いけど、「ツール」としては非常に限定的である、というのが現状の感想となります。

基本的にこのようなツールを使用して創作をしたい、という人の多くは、例え二次創作がその入り口であっても、自分の素材や、また最近ではアバターとして販売されているような素材を使って制作をしたい、と考える人が、特にVRを使用している層では多いはずです。(一般的なユーザーに比べると、VR使用者にはアバターとして「自分自身」を示すモデルをすでに所持していることが多いのがその根拠です。)反対にそういった欲求を持っていない人がAniCast Makerのようなツールを使おうとするか、という問題もあるかと思います。

AniCast Makerの今後の発展を願ってやみませんが、今後、AniCast Makerがより使えるものになるためには、根本的なコンセプトの変更が必要になってくるのではないかと感じました。

作成者: Hideki Saito

ゲーム業界に15年ほど携わり、現在は米国任天堂においてローカライゼーションエンジニアと翻訳技術の開発・保守などに携わる。