学歴と雇用

(この記事においては主にコンピューター技術の専門職に関して書いています。筆者がそれ以外の実情を知らないからです。)

AppleやGoogleで働くのに大学卒の学歴はいらないという記事が出ているのですが、これ、実は、米国では技術系業界を中心に新しい話ではなかったりします。最近の技術系求人でよく見られるのは「Bachelor’s degree or equivalent experience」(学士号、もしくはそれに相当する経験)といったような表現です。これが何を意味するかというと、大学を卒業し、学士号を保持しているか、もしくは、それに相応する社会経験(少なくとも一定年の実務経験)を保持しているか、という意味になります。つまり、大学を卒業していなくとも実務経験があれば採用します、といっているということになります。こういった求人においては例え大学を卒業していなくとも、必要とされる能力を持ち合わせていることを証明することができれば、雇用される、ということになります。

そもそも、少なくとも米国においては求人要件というのはある意味「欲しいものリスト」に近いものであり、実際、学歴に限らず、求人に応じる候補者というのは必ずしも完全に条件を満たしているわけではなく、むしろ満たしていないケースの方が普通です。なので、学歴に関しても例えそれが「〜equivelent experience」でなかったとしても応募する人は一定数出てきますし、採用される人も相当数いると思われます。(例えば、大学出てないけどGoogleに採用された〜、という話は昔から時々聞こえてくる話です。)

全般的に学歴が気にされないか、ということではなく、会社によってはこれを重視しているところもありますので、求人システムの受理段階で落としたりするところもありますし、また業界的に規制が強い分野(法務や医療、また政府系の入札が多い分野)やアカデミアに属する機関、つまり大学などがその例です。なので、医師、弁護士や教授になろうとするような人であれば、恐らく大学の卒業が求められてきます。尚、後者のアカデミアに関しては最近は必ずしも学歴に固執しているわけではないようで、MITメディアラボの所長である伊藤穰一氏などのように大学中退でも登用された、というケースもないわけではありません。ただ、特殊なケースであると言えます。(尚、大学を卒業してない方で教授やそれに相応する職に就かれている、もしいらっしゃいましたら是非お話をお聞きしたいです。)

尚、なぜ学歴が重視されない場合があるのかですが、これは米国の雇用システムに理由があります。まず、米国においては大卒を雇用し、育てる、という発想がありません。基本的には即戦力が求められます。なので、例え大学を出ていたとしても即戦力とみなされない場合は採用されない場合もあるわけです。なので、大学に在学している人でもインターンやアルバイトなどを行い、実務経験をつけます。これは技術系では顕著であり、大学内で学べる事項と現実的に求められる能力に大きな乖離がみられるため、大学で例えば計算機科学を専攻していたとしてもそれが即戦力とみなされるとは限らないわけです。これは逆もまた然りで、大学を卒業していなくとも、雇用側が即戦力とみなせば採用される確率が上がってきます。つまり、重要なのは「どこを出たか」ではなく、「何ができるか」という点になります。

そもそも、雇用における学歴は、大学卒業直後の人が雇用されるのを目指す場合、ある程度、底上げすることができますが、卒業後2年から3年ぐらいで劣化していき、10年も経つと、それよりもそれまでの職歴や能力が中心となり、ほとんど留意されないか、されてもかなり副次的な効果しか生まなくなってきます。なので、大学を中退した人、また、そもそも行っていない人にとっては最初の2年から3年、ないし5年をどう乗り切るか、ということが鍵になるかと思います。

詳しいことはキャリアーアドバイザーなどに相談して欲しいのですが、このような場合、いくつかの選択肢があると思います。

一番シンプルなパターンは大学に入学するか、中退の場合は、入り直して卒業するというパターンです。そもそもこれができる人はもともと大学に入っているでしょうし、中退もしていないと思うので、この記事ではこのパターンの説明は省きます。学費自体が高価になりすぎていることも有り、金銭的な面からもこのパターンを採ることができない人も多くいるのではないかと思います。この方法の利点は在学中にインターンなど、経験を積むチャンスも多いということになります。

次に考えうる手段は零細企業やスタートアップに入ることです。雇用安定性やリスクという観点ではあまり良好とは言えないのですが、これらのケースではいろいろなこなさないといけない分、ある意味、経験不相応な仕事にも関わるチャンスが出てきます。(例えばプログラマとして雇用されていなくとも、プログラマとしての適正を発揮する、といったことが大きな企業に比べると容易にできます。)尚、当然ながらこの方式はそういうチャンスがないと意味を持ちませんし、また、そういった企業やスタートアップが身近に存在しているとは限りませんので、かなりアンテナを広げる必要があるかもしれません。また、そういった能力を発揮するためには学習が必要になってきます。技術者は生涯に渡った勉強が必要になる職種ですので、これが苦痛な人は多分、向いていないのでしょうけど……。

もう一つ検討してほしいのはそれなりに組織構成がきちんとしていて、名の通っている非営利団体に無償ボランティアとして参加することです。特に目指している分野のイベントか、もしくは業務改善の一環としてその分野が活かせるようなボランティアを探してみて下さい。これは雇用状態に関わらずにお勧めしたいです。実務経験がつく上、特に広い背景の人がボランティアとして参加しているような団体である場合、人脈も広がります。また、通常の業務では得られないタイプの能力も得られることになります。

まとめたいのは、一般的に言って、大学の卒業証書はあって困るものではないけど、最近はそれを重視しないケースも増えてきている、ということです。技術系の業界においては技術の進歩も早く、勉学の場は必ずしも大学という組織の中ではなくなってきています。そういった中で今後生き残っていくためには、どこの大学を卒業したか、ということではなく、その進歩を学習し、仕事に適応できる覚悟があるか、ということであるのではないかと思います。